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リクナビの罪と罰

就職情報サイト「リクナビ」を運営するリクルートキャリアが、就職活動中の学生の内定辞退率予測を複数の企業に販売していたという問題は、個人情報保護委員会からの勧告厚生労働省からの行政指導で一応の決着を見て1ヶ月が経過しました。
しかし各方面での不安や怒りはまだくすぶっているようにも感じられます。


問題となっていたのは、リクルートキャリアが企業向けに提供していた「リクナビDMPフォロー」というサービスです。
これは利用企業の前年度の選考実績と応募者の行動ログを解析し、さらに当該年度の就活生の行動履歴等と照合し、企業側が内定を出したにも関わらず学生側が辞退する確率を企業側に提供するというものです。
流行に乗った言い方をすれば「ビッグデータをAIで解析して採用選考を効率化する」ためのサービスと言えそうです。一見革新的なサービスにも見えますが何が問題だったのでしょうか。

端的には「個人情報の不同意取得」が問題の起点ではあります。
学生が利用規約やプライバシーポリシーに同意してサービスを利用し始める際に、このサービスの分析対象となることが明示されておらず、同意を得ずに行動履歴を取得・分析・第三者提供されていたというものです。
個人情報保護委員会からの勧告もこの点について個人情報保護法に違反するとして行われています。またそれだけに留まらず、厚生労働省からは「本来業務の目的以外に個人情報を利用していた」として職業安定法とその指針に違反と指摘、行政指導を行ったとされています。
つまり個人情報の「取得」と「利用」の2面においてアウトと判断されたことになります。

この2方面からの指摘と、報道によると個人情報保護委員会が問題を認識して勧告を行うまでわずか1ヶ月足らずだったという仕事の早さを見ると、行政側の怒りは相当なのではないかと感じざるを得ません。言うまでもなく、学生向けの就活市場においてリクナビのシェアは圧倒的で事実上の寡占企業と言え、よくも悪くも「就活」という市場を形作ってきたサービスがリクナビです。
一方で職業紹介事業や労働者派遣事業に比べて、リクナビが提供する「募集情報提供事業」は法規制があまりされていないという事実もあり、形式はともかく何らかの楔を打ち込みたかったのではないかという穿った見方もできてしまいます。

法律上や行政手続き上の理屈はもちろんですが、仮にこのサービスが「適切な目的提示と同意取得の元」で行われていたらどうだったのかというのは一考の余地があります。
サービス利用時の利用規約はあまりきちんと読まずに同意してしまうというのは世の常ではありますが、さすがに自分の内心が多少なりとも形を変えて企業側に伝わる可能性があると思うと、どうしてもためらいが生じます。
しかしながらリクナビの市場シェアを踏まえるとサービスを利用しないと応募できない企業が多数あるという事実もあり、学生側が「リクナビフリー」の就職活動を行うことは実質的に不可能ではないかとすら思えます。
リクナビ側もある種それを見透かしていて、かつ研究開発的なサービスだからという言い訳で十分なチェックや検討が行われないままサービス提供に踏み切ったのではないかと感じられてしまいます。
公明正大にサービスとしてリリースして同意も取っていれば、少なくとも法令上はセーフだった可能性も考えられたので是非そうして欲しかったとも思いますが、リクルートキャリアのいろいろな言い訳を見るとそこそこの後ろめたさはあったのでしょうか。

このサービスの存在を知った学生や学校がどのように思うのか想像が至らなかったのが、リクルートキャリアのつまづきの第一歩でした。
さらにはプライバシーポリシーや利用規約、果ては法令に適合しているのかというチェックが十分にされなかったという組織的な不備まで露呈する格好になりました。
今後リクルートがどのように信頼を取り戻すのかが鍵ではありますが、20年近くに渡って「就職活動のデファクトスタンダード」であり続け「リクナビのない就活は考えられない」とまで言われている昨今、学生や企業の側も改めて「就職活動」を見直す良い機会なのかもしれません。