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セキュリティは信頼の上に成り立ってるという話

福山雅治さんの自宅に不審者が侵入し、妻の吹石一恵さんと鉢合わせしたところ逃げ出したという事件がありました。

これだけであれば単なる芸能人宅での空き巣未遂事件のように見えますが、数日後逮捕されたのはそのマンションのコンシェルジュの女で、福山さんから預けられていた合鍵を使って侵入したということが判明しました。とはいえやはり芸能ニュースの域を出ない話題ですが、ちょっと見方を変えるととても重大なセキュリティインシデントの要素を多く含んでいる事件です。

前提として「コンシェルジュ」とは何なのかを知っておく必要があります。
従来からマンションでは管理人がいて居住者に対して各種のサービスや管理に関わる業務を行っています。ただし管理人の場合は多くが共有部の施設の管理やメンテナンスが主で、専有部や住民の生活に及ぶようなサービスは提供されないことが通常です。

これに対して高級物件などではコンシェルジュと呼ばれる人が常駐し、従来の管理人業務のみならず宅配便やクリーニングの発送・受取代行やタクシーや出前の手配などもう一歩進んだ「御用聞き」を提供しています。「管理人」と「コンシェルジュ」に明確な差はありませんし、そもそもコンシェルジュの原義はフランス語で「門衛・管理人」なので大差はないのですが、日本の住宅業界においてはより住民に密接なサービスが提供され、高級感を出したい場合にコンシェルジュという呼び方がされることが多いようです。
ちなみにさらに格上のサービスとしては「執事・バトラー」が常駐している超高級マンションなども存在します。

さて、福山さんの事件の舞台は渋谷駅近くの高級マンションで、セキュリティ面の充実が売りのひとつになっている物件で芸能人にも人気だと言われています。こういったマンションなので「コンシェルジュがいて、緊急時のために合鍵を預ける」というのも業務範囲内という見方は十分にできますが、この管理運用方法があまりにも杜撰だったことがこの事件の大きなポイントです。

一部報道でも言われていますが、本来このようなオペレーションにおいては警備会社のシステムと連動した金庫などで厳重に保管され、管理人などでも誰にも気づかれずに一人で持ち出せない仕組みになっているべきものです。しかし今回はそれが許されてしまっており、犯人の動機以前にそもそもの管理が杜撰だったのではないかという指摘が出ています。

そもそも立ち返れば「セキュリティにコストをかけたい人」はその担い手に対して厳密な運用体制を期待するからこそ、そのコストを支払うという面があります。
ましてやマンションにおいて「管理人」ではなく「コンシェルジュ」という名前をつけるからには、人並み以上に信頼したくなるのが人情です。むしろその人の人柄にこそコストを支払いたくなるという側面もあるのではないでしょうか。

「いろんなリクエストを聞いてくれるコンシェルジュ」も便利ですが、「気さくな管理人のおじさん」であってもそれはそれで信頼できるということも往々にしてあるのではないかと思います。

逮捕された女はパート従業員とされており、サービスあるいは業務の内容に見合う待遇だったのかどうかは疑問が残るという指摘もあります。

2年前のベネッセの個人情報流出事件もそうですが、セキュリティインシデントというより、福利厚生と従業員待遇、そして適切な人事評価とそれに基づく業務分掌や権限付与という、制度や仕組みに起因する問題といった方が適切ではないかと言われており、今回の事案も似たような側面があるのではないかと思います。

もう少し派生した論調では、管理会社側が体制構築や従業員教育に必要な手間とコストをかけていたのかという点も指摘されています。この事件によって住人に対する管理会社の信頼は地に落ちたものと思われます。この信頼を取り戻すためには膨大な時間とコストがかかることになると想像されますが、今まで対策をしてこなかったツケはとても大きなものになることでしょう。

世の中で様々なセキュリティ関連の事件が起きますが、外部からのハッキングや盗難などは以外と少なく、むしろ内部犯行の方が多いと言われています。セキュリティを託す側は相手を全面的に信頼してその対価を支払うというのは当たり前の構図ですが、「そもそもは信頼によって成り立っている」という当たり前の事実を忘れてはなりませんし、託される側もそのことを意識して真摯に取り組まなければなりません。