特集

「サマータイム導入」という大事業の成否はどっちだ

東京オリンピック・パラリンピックの暑さ対策の一環として、大会組織委員会が政府にサマータイムの実施を提案したというニュースが報じられて以降、各所でその賛否を巡る議論が交わされています。
マスコミの世論調査などでは賛成の方が多いという集計もあるようですが、感覚的には反対意見の方が多いようにも感じられます。
特にIT業界からは、「対応範囲やコストが読めないし、そもそも実施が検討されている2019年の夏まで1年を切っているのに間に合うわけがない」が共通した見解ではないかと思います。
仮に実施することになって何事もなく通過する可能性もゼロではないかもしれませんが、その影にはIT業界を始めとする各種業界における生産性の全く無い努力の賜物という無情な現実しかありません。
それによって得られるメリットが、オリンピックのマラソンが人道的な時間に実施できるというだけということになると、涙なしには語れないでしょう。

サマータイム導入に対する反対意見は実にシンプルで、現代の日本のありとあらゆるシステム(情報システムに限らない)はサマータイムを想定した設計がされていないということに尽きます。

コンピュータはもちろん、交通機関・流通などありとあらゆる経済システムが「日本標準時はUTC+9である」「1日は24時間である」という前提で構築されています。
これをずらすという作業、そしてずらした後も同じように連続性を持つようにするという作業にどれほどの手間がかかるかは全く想像できません。

賛成派の言い分として「欧米での導入実績が多い」ということが言われますが、社会システムが構築されていく中、特にここ数十年のIT化が進む中でそもそもサマータイムを前提として設計・構築されてきたのと、この現代になって急に導入するのとでは、そのハードルは比べ物にならないのは明らかでしょう。また実施している欧米諸国は多いものの、歴史的には不評による廃止と復活を経て定着してきたという事実もありますし、現在もEUで廃止の議論が進んでいたりもします。
また賛成派の雑な理論で「時計をちょっとずらすだけだろ」という言われ方をしていますが、時計そのものはそれでいいとしても、すでに記録されている時刻やサマータイム期間中に記録される時刻の扱いをどのようにするのかや、その際に内部処理的な時刻と表示上の時刻をどのように取り扱うのかなど、検討すべき要件は少なくとも「時刻が絡む処理全て」のため実に多岐に渡ります。
加えて一般には「1時間ないし2時間ずれる」ということに話がフォーカスされがちですが、「開始日は1日が22時間になり、終了日は1日が26時間になる」というのも重要なポイントです。

コンピュータシステムはもちろん、鉄道の終電の扱いはどうなるのかや、終夜営業をしている業態における業務や労働時間の扱いなど気になるポイントは枚挙に暇がありません。もちろんノウハウとして欧米のサマータイム実施国での運用を参考にすべきというのはもちろんですが、世の中の全てが実施が検討されていると噂される2019年夏に間に合うような気は、微塵もしません。

一応、この秋に始まる臨時国会で議論されるという話はあるようですので、この推移を見守るしかないというところのようです。

余談ですが、現在の日本標準時に対する法的根拠はなく、昭和46年の旧郵政省告示くらいしかないようで、実際に法整備をするにしてもどのように行うのかというのも気にはなるところです。